3月のフランス菓子研究所 アンガディーネ(ちかれぽ)

スイスのエンガディン地方が由来の、エンガーディナーと呼ばれるお菓子。フランス語読みでアンガディーネです。エンガディンは寒いところなんだそうで、確かに、バターたっぷり生地にこれまたたっぷりのくるみ入りヌガーで、エネルギー量が大変多くなってます。

でも、作るのにも相当エネルギー使いましたよ。ローマジパンにバター混ぜ込むのでもかなりしんどかったのに、さらに大量の冷やした粉を力いっぱい押し混ぜる。卵が入らないので水分が少ない生地です。木べらじゃ面積が足りず、カードでぎゅうぎゅうと一体化させます。ぜーはー。

後でフタと土台に分割するので、長方形にして寝かせます。その間にヌガー作り。まずは銅ボウルを磨きます。ベテランひろこさんが新人ちゃんに磨き方を伝授。「塩入れて、お酢入れて、じゃーってやります。」ナガシマか。お酢は酸化した金属から酸素を還元する役割があります。塩は研磨剤として足しています。そうそう、私が子供の頃は銅のサビ「緑青」は毒があるって教わったんですけど、40年くらい前に無害同様であるという研究結果が出たんですってよ。

磨いた銅ボウルに、砂糖を少し入れて弱火で溶かします。全部で120グラムほどの砂糖ですが、一気に入れると溶けるのに時間がかかるのです。少しを溶かし、溶けたら次をまた少し。「急がば回れ」って先生が常々おっしゃるセリフです。

イルプルーのルセットはだいたいどれもみんな、異なる素材を混ぜるときに、いっぺんにだーっと混ぜることはありません。でもだからって、ちょっとずつならいいってことでもなく。どんな場面でも適量があるし、ましてやそれはあくまで目安。最終的には混ぜ合わせながら「どう?もういいかんじ?まだ?」なんて生地と会話です。

溶かした砂糖をいい感じに煮詰めて、クリーム類を混ぜ、くるみとレモン汁を加えてさらに煮詰めます。これが見極めるのがむずかしくて、火を止めた時にはだいぶ緩いと思ったのですが、型に流して冷やしてみたらまあまあいい具合でした。使ってる道具や室温、クリームの状態など要素が多すぎるので、何度か作ってコツを掴む以外になさそうですよ。

寝かせた生地を成形してもう一度寝かせ、空焼きして冷ましてからヌガーを埋め込んで、上にフォークで模様を描いてから本焼き。

作業自体はどうってことないけど、とにかく時間がかかりました。

本焼きの間に試食。ほろ苦いキャラメルが香ばしいくるみにぴったりで、さくほろの生地と一緒に食べるともう幸せ以外の何物でもないわ。

そうこうしてるうちに、生徒さんであるKさんのご家族がケーキの引取に見えました。大学受験だったご子息、無事にいくつかパスしたそうでなにより。彼はプチクラスの生徒さんでした。レッスン後にでっかいおもちゃの機関銃を取り出し、ダダダダダッと撃ちまくってたんだって。月日の流れるのは早いなぁ。

そういえば焼き菓子にフォークでつける模様にはいろんな意味があるんです。麦は豊饒、太陽は生命力。今日の模様はひまわりで、意味は栄光です。Kさんのご子息含めすべての受験生ちゃんに朗報がありますように。

(坂本 知香)

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