12月のフランス菓子研究所 ビッシュ・オ・シトロン(ちかレポ)

果物をババロアにするには様々な工夫が必要なのでございます。何しろ、果物の長所は「爽やかな酸味」「華やかな香り」「新鮮な味わい」ですものね。それを「卵と一緒に炊く」ってところでうっかりすると台無しにしちゃうんです。

そこでうちの師匠のそのまた師匠である弓田享ちゃん(なぜ「ちゃん」だ)は考えました。うーむ。最初は半量使って仕上げに半量ぶっ込み、フレッシュさを表現してみたマンゴーの技もいいけど、今度はレモンの香りをこの上なく移すために皮と果汁もろとも低温でアホみたいに長時間炊いてみよう。ついでにクエン酸で爽やかさ増し増し作戦だ。ふふふ。俺って天才だな。って。ああごめんなさい、私今作り話しました。だって60度で30分って本当に本当に大変だったんですもん。手は熱いわ温度はすぐに上がるわ下がるわ、軍手してるとカセットコンロの点火消火がまだるっこしいわ。こともあろうに作りながら師匠に文句です。「こんなの、前にもやりましたっけ?覚えてません。なんか意味あるんすかね。」「でもさすがの私もこれは絶対はしょらないと思うから、前にもやったんですよきっと。いやあ人間って忘れる生き物ですねえ。」「ですねえ、じゃないですよ。。。ほんとに覚えてませんもん。」でも駄々こねたおかげで、めんどくさいフォン・ド・ダックワーズのカットを師匠がやってくれました。ラッキーな私。良い子の研究員は真似しないように。

教室入って13回目のクリスマス、ビッシュを作るのも多分10回目くらいじゃないでしょうか。たまにビルヴェッカやシュトーレンにスイッチするけれど、ミサリングファクトリーのクリスマスはビッシュが定番。フレーバーが変わっても仕上げのスタイルが一切変わらないのがワンパターンの美学。そして毎回言わずにいられない「切り株って、いる?」先生のデモは18センチなので、切り株は別になくていいけど、25センチの時にはなんとなく無いと間抜けっぽいんですって。

よく作るビッシュは外壁をクレームシャンティ・ショコラブランで設営しますが、今回はムース・オ・ブールです。かなりたくさんバターが入るんだけど、ムラングイタリエンヌのおかげでふんわりした軽い仕上がり。この、口当たりでカロリーの重量を勘違いさせるニクいやつ。誰ですか、半分空気だから0キロカロリーって言うのは。正解。

水・木・金と4時間半に及ぶ死闘だったと伺ったので、命が危険になったら途中で口に突っ込もうと思い、イチゴとキンカンを買っていきましたが、結局食べる隙間も与えられないほどの連続作業でした。これ5回やる先生って超人だな。試食の時、前のクラスの仲間が作って持ってきてくれた「味噌玉」をお椀に溶いていただいたのだけど、心から美味しかったです。戦友よ、来年からも共に闘おう。

さて久しぶりのビッシュは相変わらず完成度の高さに驚く味です。こんなケーキどこのケーキ屋も作らないから、食べたかったら作るしかない。禁断の味ね。そしてあんだけ文句ダラダラ言いましたけど、食べると理解できてしまう、30分の炊き修行の意味。っていうか、誰かにもし分けてあげたとしても、どんだけ複雑な工程を経たのかのストーリーを30分聞いてもらいたい。よく、会社でお菓子振舞うと「すごーい、どうやってこんなの作れるんですかー?」ってかわいこぶって聞かれるけれど、後悔すること必至ですよ。あ、これ冷凍できるんだった。独占決定。

松本先生、素晴らしいお菓子を今月もありがとうございました。来年からは文句言わないで作る人になります。ご一緒した皆さん、ありがとうございました。また来年もよろしくお願いします。良いクリスマスとお正月を。(坂本 知香)

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