私たちにできること。ミサリングファクトリーお話会「校内居場所カフェ」(ちかレポ)

校内居場所カフェというものをご存知でしょうか。

問題を抱える高校生を個別に相談室に呼び出して
お互いによく知ってもいない指導員が話を聞こうとしても
なかなかうまくいくものでもありません。
そこで、放課後の校内のスペースを使って
そこに来れば利害関係のない大人がいて
お茶を飲んだりお菓子を食べたりしながら
会話ができるようにし
信頼関係を築いた上で問題解決に

リーチしようとする仕組みです。

NPO法人パノラマの石井正宏氏が
県内二つのクリエイティブスクール(注)で
展開している活動に
ミサリングファクトリーの松本先生が
支援するようになって5年になります。
バレンタインやクリスマスにお菓子を作るイベントを
依頼されて出張することも。
フランス菓子研究所の生徒も数名同行しています。
材料費以外はボランティアです。
今回のお話会では、石井氏の取り組みや
お菓子イベントの状況を見聞きし
その上で、私たちに出来ることってなんだろう?と
話し合いました
平成25年の高校卒業者数は全国で109万人。
石井氏のまとめた資料によると
中退者は5万9千人、卒業してフリーターになるのが1万3千人、
行き先が決まってないのが5万4千人。
そして就職しても1年以内に離職する子が3万人。
毎年約15万人近い高校生が不安定な状態で社会に出ています。
彼らは将来かなりの高い確率で生活保護を受けることとなりますが
それを水際で防ごうとしたら、「高校に在籍している間しかない」と

石井氏は考えています。

そんなカフェですが、二つの学校で様子がかなり違うのです。
ひとつめ、青葉区の田奈高校「ぴっかりカフェ」に
ボランティアに行ったちえちゃんの話。
ちえちゃんは高校の先生をしていた経験もあります。
ぴっかりカフェの開催場所は図書室。
生徒だけじゃなく、やってくる大人ボランティアにも
居心地の良い素敵な空間は
司書さんのお人柄によるところが大きいそうです。
ちえちゃんは4年前に、4歳の息子さんを伴って行ったのですが
みんな素直で可愛らしく、息子さんにも優しく接してくれて
「愛情を与えることを知ってる子たち」だという印象と。
ただ、「今日は何も食べてないから、ここでお菓子を食べたら
次はバイト先の賄いを夜10時に食べるんだ。」
という話には驚き、
また、自分のお昼にと持参していたおにぎりを
すごい勢いでねだられ、分けてあげたんだとか。
スマホはみんな持ってるし(友達と繋がるための命綱)
おしゃれにも気を使っていて
もし貧困家庭にいるとしてもそうは見えないようにしています。
「だけど本当に支援を受けたい子は
カフェにすら来られないのかも知れない。」
とちえちゃん。そこがカフェの課題にもなっています。
ふたつめ、大和市の大和東高校。
ボーダーカフェという名前で
毎週一回、フリースペースを使って
開催されています。
2017、2018とクリスマスケーキ作りのお手伝いを
わたしもしました。
大和東高校がクリエイティブスクール認定を受けたのが
2017年。その年のクリスマスパーティに来ていたのは
2、3年生は通常の入試方法で入ってきた子たち、
1年生だけが学力試験なしで入ってきた子たちです。
まずは松本先生がケーキ作りのデモをやります。
みんなテーブルを取り囲んで真剣に見て
そのあとそれぞれのテーブルで
仲良く楽しそうにケーキを作っていました。
ボランティアさんの小さなお子さんも
混じっていましたが
高校生はその子を優しく世話していました。
終わってからは片付けを手伝う子もいて
爽やかに「ありがとうございました。」と挨拶も。
そして翌2018年、同じようにデモをしても
ほとんどの子は見ていません。
テーブルにある生クリームを
絞り出し袋から直接口に入れたり
軍手についたクリームで
友達の顔を触ったり。
私たちはほとんどそれを呆然と見ていました。
ぐちゃぐちゃになったテーブルを
悲しそうに片付けるみなこさんの姿ったら。
あとで石井氏とお話しした時に
「彼らも食べ物を粗末にすることが悪いことは知っているが
友達にウケることを優先してしまうんです。」と聞いて
なんだか辛い気持ちになりました。
家庭できちんと食べ物を用意してもらえることがなければ
食べることを大事だとは決して思えないし
それはつまり、自分を大事にしてもらえてる
実感が持てないということでは
ないでしょうか。
それでも石井氏は例えば
「クリスマスにはみんなでケーキを作って食べる」
というような、文化的資本を積み上げることで
人とのつながりを持つことができ
経済的資本を得て、自尊心や自己肯定感を
得られるようになると考えています。
お金の援助にはどうしても限度があるけれど
文化的資本の提供だったら何とかなるかもしれない。
お話会に参加していた中学生は
自分の周りに困ってる友達はいる?と聞かれ
「本当に困ってることは友達には言わないかもしれない。」と。
学校の先生で、話を聞いてくれて安心できる人はいる?の問いには
「保健の先生は話すとホッとする。」と答えていました。
小学生のお嬢さんのお母様は
「友達や親以外で、話せる大人が近くにいるのは
ありがたいことだと思う。」と。
息子さんが3つの高校に行った(現在は立派な社会人でお子さんも生まれました)
というMさんは、
「子供が問題行動を起こすとよく、母親は何してんだと責められるが
母親は母親で忙しく余裕がないこともある。そこのフォローも必要では。」と。
みなこさんは
「自分にできることは何か、と考えたら、目の前にいる高校生と話をすることや
目の前にあるぐちゃぐちゃの机を掃除すること、
1年に2回くらいのことなので、行ったその時に出来ることを精一杯やるだけ。」
松本先生は
「こんな風にお菓子作り体験の依頼を受けられるのは、うちくらいしかないと思う。
今は材料費をもらってるけど、そこも支援できたらいいと思う。
周年祭のカフェの売上を今は東日本大震災で困っている子供の支援に寄付している。
同様に校内居場所カフェの支援用にお金をプールできたら。
そしてこういう活動をしていることをたくさんの人に知ってもらって
ボランティアに参加してくれる人を増やしたい。」とお話していました。
「困ったことをする子は困っている子。」
石井氏の言葉です。
困ったことをした子を非難したり叱責したりする前に
「どうしてそんなことしたんだろう」と理解しようとすることから。
お互いをわかり合ってこその信頼です。
そして本来なら、悪いことを悪いと叱るのは
幼児までに受ける指導のはずで
それが受けられなかった責任を
本人に転嫁することは出来ないと思うのです。
今年ももしオファーがあれば出かけていって
去年「チョコクリームはもういいや。甘すぎるもん。
次は普通のにして。」と言ってた女の子たちが
またケーキを作るのを見届けたいと思います。
(坂本 知香)
(注)クリエイティブスクール(全日制普通科(学年制))
「一人ひとりが持っている力を必ずしも十分に発揮できなかった生徒に対して、
これまで以上に学習意欲を高める取組みを行う学校です。」
(神奈川県のHPより)
入試には中学の内申提出や学力試験はなく、面接と小論文で判定されます。
中学時代に不登校や成績不振があっても、本人のやる気が見えれば、
高校で再チャレンジさせようということです。
県内には5つのクリエイティブスクールがありますが
中退する子の数は年間平均55人。約2クラス分がやめている計算に。
受け入れたはいいけどどうやって取り扱えばいいのかわからないという
先生の苦悩もあるようです。

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