MF育ちのパティシエール活躍中

買ってきたよ、とムスメから連絡が入ったのは

レッスンが終わってみんなで試食してる時。
ムスメの大好きなMFの先輩、まゆちゃんが
パティシエール3年目にして初の
オリジナルケーキを販売したのです。
期間限定、本日最終日。間に合って良かった。
電話で予約してから向かったところ
「サカモトで4個ってことはもしかして」と
まゆちゃんが店頭で待っててくれたそうです。
駅からはちょっと離れたお店に
車を運転しないムスメが一人で来たので
「どうやって来たの?お父さんお母さんは?」
と気遣ってくれたとか。
迷子か。(ムスメは社会人です。念のため。)
まゆちゃんと初めて会った時、彼女は中1。
背の高いおさげ髪の穏やかなお嬢さんで
一人っ子のムスメは突然現れた素敵なお姉さんに
大喜びでした。
周年祭のカフェスタッフやこどもレッスンのアシスタントを
一緒にやりながらたくさんのことを教わりました。
まゆちゃんは一見大人しく控え目な雰囲気ですが
芯のしっかりした子で
「それだけ内申あるんならもっとレベル高い高校に行けばいいのに」
と周りに言われても、自分が良いと思った高校に進学し
片道2時間半を厭わず自分が行きたいと思った大学に通い
パティシエールという職を選びました。
お勤め先は地元で有名なパティスリー。
朝早くから夜遅くまでの過酷なお仕事。
印象に残ってるのは、1年目のクリスマス直前の話。
高額のケーキは限定10台、ちょっと高めのケーキが各種100台、
スタンダードのケーキは無制限という販売計画のもと
新人のまゆちゃん達に振られたお仕事は「電話取り」。
予約電話が入った時に、お客様の名前やケーキの種類や
引き取り希望日時を予約票に手書きするという
アナログなお仕事ですが、
同期の男の子があまりに悪筆で
書いた票をデータ入力する係の人から
「読めません」と苦情が来たため
全ての電話をまゆちゃんが取る羽目に。
「そうなんだ、じゃあ今お店に電話したら
まゆちゃんとお話しできるんだねー」と言ったら
真顔で「やめてください」だって。
今回、「若手パティシエの力作発表」と銘打って
販売されることになったのは
「未来の熟練パティシエ育成プロジェクト」の
第2弾とのこと。
通常のお仕事が終わった後に試作をたくさん繰り返し
完成したのは、
可愛らしい白い花にとまるミツバチが春を思わせる
蜂蜜と紅茶のムース。
ちっちゃなコーヒービーンズチョコに
アイシングでアーモンドを2枚貼り付け
型抜きしたチョコレートに乗せてます。
もちろん一つ一つ手作り。
紅茶の香りが際立つムースと
蜂蜜の優しい甘さのとろけるムース
間にオレンジジュレがアクセントに。
食べた瞬間、あ、まゆちゃんのお菓子だ、と思いました。
ふんわりと優しい口どけの中に
真摯に実直に修行している彼女の熱い思い。
こどもだった頃からずっと見ているし
なんだか勝手にハハみたいな気持ちになり
つい胸がいっぱいになって泣きそう。
「まゆ姉さん、さすが」と嬉しそうに食べるムスメ。
我が家の幸せな時間でした。
パティスリーにまゆちゃんのケーキが
いつも並んでるという光景も遠くないと思いますが
この記念すべきケーキを食べることができた幸運を
ひそやかに自慢したいと思います。

(坂本 知香)

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